卒業、まえ

多分、卒業式の日が今年度最後になるかと思うんだけど、寝顔みたり、思いっきり拗ねてみたり、彼が用意した朝食を食べたり、キスしたりするのは今日が最後で、次に会えるのはいつか分からない(会社の関係で入社後の配属地がまだ分からない)ということもあって、駅まで送ってもらう時なんとなく二人とも無言。元々は私のものだった、唇尖らすという不満を表す仕種は思いっきり彼に移ってしまって、そんな彼が面白くてつい憎まれ口をつく。『そんなこと、人前でやったら、気持ち悪がられるよ』
彼よりも幾分早く起きて寝顔を充分堪能していたから、もういいやと思って私は前ばかりみる。彼をみたり、横を向いたりすることもなく。この辺ももう二度と歩かないかもしれない。
何故か手は繋がない。彼が荷物を二つ持とうとしたのをいいよと言って、一つだけしか持たないように片手は必ずあけるようにした意図を図りかねたようで、宙ぶらりんのまま。言葉少なに。いやだなぁ。たまに彼が発する言葉と言えば、『がんばれよ』ばっかり。私のほうが先に研修を受けることになるから、それでこう言ってくる。聞きたくない。そういうのが私をさらに好きにさせる。私は返事しない。『うるさい』ばかり答える。
こんなことしかいわない人なんか嫌いだ。辛くないように、彼のことなんか考えないようにしようと決めているのに。少し間の別れか、長い別れとなるのか分からないから、もうどうしたらいいのか。
駅に着いても、彼は『がんばれよ』と言う。夜には泣くかもしれないけれど、人前でなんか泣かない。さっと改札くぐる。『じゃあね』だけ言った。顔なんかみない。彼がどんな顔してるか分からない。
ちょっとかもしれないからもっと楽観的になりたかったけど、無理なんだなぁ。大丈夫…大丈夫…最悪の状況を想定してるから、きっと傷は浅くなるはず。寂しさを受け入れる余裕はあるはず。
卒業式に会えますように。